遺伝子発現のスイッチ

農事を能くする人の多くが実際に見聞きし、身近なものとして疑うことのない認識は、時として科学的に否定されることがあります。
残念なことに、こうした篤実な人たちの経験則は、大きな声にかき消されてしまうだけでなく、近年幅をきかせているようなネットだけからの知識と言葉遣いの悪い佞言を発信する人々によって、蔑ろにされるようにもなってきました。

さて、遺伝子の発現に世代交代は必要なく、それどころか、次世代の変異にも良くも悪くも影響を及ぼしているようだといえば、件の方々からやはり馬鹿と言われるでしょうか。与える刺激によって、変わってゆくものであり、代を重ねるとそれが固定化されてゆくのです。

結論は述べましたので、あとは説明です。

私自身、山で遭難して低酸素低血糖、脱塩、急性水中毒などの異常事態に直面してから、三年かけて体力を戻し終えた頃から急速に太るようになったことがあります。更に三年後に肺炎をやって一気に痩せ、体力が戻った翌年に帯状疱疹をやり、以後安定して中太りでしたが、夕方以降は就寝に合わせてお腹を減らすようにしたところ、最も調子が良い状態を保ち、調子に乗って夕方以降に食べるようになったことで、今は再び中太りです。

整体指導において、妊娠しにくい事例の中には、栄養を落とすと妊娠しやすくなることがあると、私の師である井本邦昭先生から聞いたことがあります。そして長年体を観ていると、実際にそうであることも多く、どうも糖が過剰になると特にそうなりやすいという事例が頻繁にありました。
栄養成長と生殖成長があり、ある程度生存の危機のようなものを日常で経験しないと、種の保存より自己保存のほうが優位になるようなのです。
ですから、私がいつも言うのは、元気な人は寝るまでにお腹を減らして、そのまま眠ると良いということです。栄養を身につける必要のある状態ならば、食べて眠れば良いのです。本当に空腹になると落ちるように眠くなるのは、欠乏するからです。体温や酸素にしても同様です。寝ている間に蓄えをエネルギーに変換するためです。

以前に当室で配っている「整体通信」にも書いたように、ある種の薬草も、虫の食害を敢えて受けさせることで、薬効が表れたり、増したりするのです。例えば、土と水で分解されて無害になるラウンドアップなどのグリホサート系の除草剤(何故か攻撃されているようですが、比較的安全な部類です)を使って、雑草を枯らそうとすると、少し強い草であれば、急に生殖成長に切り替わり、栄養成長し終わってないにも関わらず、枯れる前に種をつけることがあります。多くは不稔性ですが、発芽すれば次世代は抵抗力が増しています。環境に応じて遺伝子発現し、それが次世代にさらなる能力発現を促したと言えます。ただし、その能力は固定までに三世代は注視する必要があります。ある能力を得たとしても、先祖返りというのもあるためです。

先祖返りかどうか、もしかすると三倍体や四倍体なのかもしれませんが、稲の品種にヒノヒカリというのがあり、コシヒカリと黄金晴という品種を交配させたものなのですが、このヒノヒカリからは、数年に一度の高頻度で、採取した種子の中から特別に大きな植物体の個体が一株二株生じます。不稔性であることも多いのですが、一度適当に増殖目的で栽培しようとして、スクミリンゴガイにやられたり、不稔籾が増えて増殖困難になったりと、食べてみることすら叶わなかったので、それ以来見つけても早めに刈り取って、ちょっぽりの藁として利用しています。

食糧難に遭ったイナゴは、餌場に密集するなど様々な刺激を受け、また卵同士の密集などの影響で、次世代の形態が長距離飛行可能に変わります。やや生殖能力の落ちる一方で、ひたすら自己保存に邁進する「飛蝗」となります。

昔から百姓の間では常識でしたが、植物は虫に食べられることで、味が変わってました。今では化学物質を合成することが、科学的にも立証されるようになりましたが、数十年前までは、ドン百姓がまた嘘ギリ言いよるわいと、馬鹿にされていました。虫に抵抗する効果のあるものを作るようです。これが、濃度に応じて人間にとっての毒ともなり、養分ともなり、また薬ともなるなど、本体は同じでも効果が違ってきます。これを、各個人が味覚で感じることで、適度な濃度を測っています。必要なときは濃くしたくなり、元気なときは薄めたくなるものです。本来の漢方の濃度の決め方もこうであるはずなのですが、全員が敏感ではないので目安にとどまっています。これは、人種云々ではなく、各個人ごとに異なるものです。
因みにアオクサカメムシのあのいやな臭い成分も、濃度を薄めると青リンゴの香り成分と同じ香りがします。化学物質そのものは同じです。従って、カメムシに吸われた米を食べていやな臭いがするというのは、妄想か、思い込みです。本当に臭いが移っているなら、海原雄山(漫画の登場人物)くらいに味がわかる人であればフルーツの香りがするというはずです。
また、牛の糞の中にはバニリンが微量含まれています。牛のウンチも200度で温めているうちに甘い香りが漂ってくるかもしれませんね。

長い文章ですが、あと少し。長くなるのでいつまでも書かずにいて、漸く今書き連ねています。

私は連作が得意です。何故か上手くいきます。連作に合わない作物もあるのですが、私の作るものは今のところ大丈夫です。ニンニクは15年ほど、ナスで4年、サトイモは15年(途中で1〜2年止めてました)ほどです。
ある土地の植生はだんだん変化したり、一定だったりと、何らかの工夫をすることで、植物自体が適地になるような働きかけをしているようなのです。それを読み取って、余計なことはなるべくせず、欲していることをなんとか見つけ出そうとしているうちに、こうなりました。
病害虫も、最初の二、三年を過ぎると、発病や害虫の発生が一度増えるのをピークに自然と減ることがわかりました。
このように、植物自体が都合の良い環境を作ろうとするのですが、それでも上手くいかないこともあると思います。

これと同じように、人体においても、命に関わらないような普遍的な病気を経ることで、却って丈夫になるのです。風邪などがその好例です。
撲滅することばかりを考えるのではなく、いかにうまく経過させるかこそ、命の生きる道、知恵というものでしょう。

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